
福田蘭童という名前は、以前読んだ「釣」という随筆のアンソロジーで知っていたのですが、単行本として読むのは初めてでした。
著者は、夭折の画家青木繁を父に持ち、自身は尺八演奏家・作曲家として名を成した人だそうですが、一方で並外れた釣り好きであったことがこの著作で分かります。文字通り、世界を股にかけて釣り歩いたその紀行文は、単に釣り好きの釣行記という枠にはまるものではなく、一種の旅行記、漫遊記の体をなしています。
ちょっと笑ってしまったのは、疑似餌の代わりに、男性諸氏にはお馴染みの、とある衛生用品を使用したこと。何でも、紡錘状に切ってハリに付け、仕掛けを上下させると、まるでイワシが泳いでいるように見えるらしく、入れ食い間違いなしとのこと。かの開高健もその教えを請いに蘭童のもとを訪れたということで、その時の顛末がまた別の随筆集の中に収められています。さしずめ今の時代であれば、使えるとすれば陸っぱりのメバリングでしょうか。(○っしーさん、今度一緒に試してみましょうか?)
この蘭童、私生活では色々と雑音が絶えなかったようですが、それが反映されてか、釣りの紀行文を読んでいるだけなのに、例えて言うならば、吉行淳之介の随筆を読んでいるかのような、時に人懐っこく、けれど時にさばさばとした、独特のチョイ「エロさ」を感じます。
釣りの紀行文ですが、決して釣り自慢ではありません。何と言うのでしょう、いくつかの趣味の一つとして釣りをする人が、ちょっと竿を持って遠出した時の道中記とでも言いましょうか。異国で知り合った、愛すべき隣人がたくさん出てきます。釣りをする人に悪い人はいないということなのか、はたまたこの蘭童という人物が周りに好人物を集める作用を持っているのか、いずれにせよ楽しい(というか素敵な)読み物でした。
福田蘭童『世界つり歩き』(報知新聞社)
p.s.)この本を含め、釣りにまつわる楽しい本を何冊か、昨年のクリスマスに文泉堂さんから頂きました。ほとんどが今はなかなか入手出来ない、貴重な本ばかり。この場をお借りしてお礼を申し上げます。ありがとうございました