
アンドラーシュ・シフ(ピアノ)&カペラ・アンドレア・バルカ演奏会(3/21ミューザ川崎シンフォニーホール)。
このところコンサート情報にも疎くなったが、たまたまSNSで目にして知った演奏会。
曲目はオール・バッハ・プログラムで、ピアノ協奏曲を6曲。実は東京公演(初台のオペラシティ)は既に満席で、川崎でなら席が残っていたのだが、初めて行ったミューザ川崎は、同じヴィンヤード型(ステージを取り囲むように座席が並ぶ)でもサントリーホールよりもステージまでの距離がぐっと近く感じる。
元々はチェンバロのための協奏曲だが、シフが弾くと、それをピアノで弾くことの是非などどうでもよい気がしてくる。変幻自在のタッチ、抑制のきいたペダリング、何よりもピアノやピアニッシモの美しさ。
プログラム終演後はカーテンコールが続き、やがて舞台袖からソリスト用の譜面台が2つ運ばれてきたのでもしやと思ったら、アンコールはなんとブランデンブルク協奏曲第5番の第1楽章。それは終盤にチェンバロの壮大なソロがあり、一連のチェンバロ協奏曲の原点とも言えるもの。
そしてさらに、弦楽器奏者が全て袖に引き上げた後、シフが一人でカーテンコールに応えていたが、おもむろにピアノの譜面と譜面台を閉じ(通常それは、これでアンコールも終わりよという合図)、ゴルトベルク変奏曲の冒頭、アリアを弾き始めた。
それはそれは美しい弱音で、この世のものとも思えないほど。そして最後の一音、ベーゼンドルファーの弦の響きが消え入るまで、ホール全体が固唾を飲んで、いや息さえも殺して見守る。そしてたっぷり数秒の静寂。
シフ自身もご高齢(1953年生まれ)、楽団のメンバーも80歳を超える方もおり今回が最後の日本ツアー。このタイミングで、このホールで、あの席で聴けたことは、きっと一生忘れない。